社会に役に立ち、感動を与え、真実を残す出版社

朱鳥社は個人出版を応援しています。

朱鳥社

出版体験記

人神るる

編集者さんは千手観音さん

 「この人は本を出している」と紹介されると、大概の方は「凄いですね」とおっしゃるのだが、私は自分が凄いとはちっとも思えない。凄いのは根なし草のようにフラフラと覚束ないクラゲ人間の私に、根気よく付き合ってくださる編集者の皆さんだ。いつもいつも「これでいいのか、なんだかおかしくないか」を繰り返している私としては、この編集者さんの存在はアリガタイの一言に尽きる。今回も再校でずいぶんと赤を入れてしまい、その上表紙に無理難題を押し付けてしまったので、迷惑を掛けているなあと反省しきり。

 昨今はホームページだブログだツイッターだと、自分の思うまま、感じるままを公表できる場が数え切れないほどある。その中であえて出版に拘るのは、「言いたいことは腹を括って言う。活字に残るのは間違いも勘違いもすべて残る」ということだからかもしれない。

 短編は気楽で好いですねと言われることもあるが、飛んでも八分歩いて十分だ。短くても神経をすり減らすのは同じ。そして考えあぐねて迷路に突入しては投げ出すのを繰り返す。そんなとき、「そろそろ1冊にまとめませんか」と声を掛けてもらえると、ふっと背中を押されたようにまた机に向かうことができる。

 取り敢えず書いた作品は印字する。この段階でパソコンを使えば本は自分でも作ることができる。なぜ編集者が必要なのかは、自分の目だけで判断していると思わぬ落とし穴があるから、編集者の客観的な視点はとても重要で不可欠なものだからだ。

 初校が上がるまでの数日間は作品から離れている。それが良い「漬け込み期間」になって、また冷静な目で作品と向かい合える。書いてすぐに送信するものとは本質的に違う。そして初校が上がってくると、その活字のつらなりの美しさに居住まいを正してしまう。パソコンで打ち出したものとはまったく別物だからだ。印字とは違って、活字はまさに活きている文字だ。

 印刷物になるということは製版から紙からインクから、さまざまな人の手が加わる。だからこそ腹を括ってかからないといけないと思っている。今年は電子書籍元年になるとか言われているが、どんなにリアルに画面上でページが捲れても、やはり紙の上の活きた文字の魅力は捨てがたいものがある。

 まるっきり無の状態から文章が生まれ、最後は本という形あるものになったとき、頭の中のイメージだけしかなかったものをここまでにしていただいてと編集室の方角に掌を合わせたくなるのだ。

デザートは本屋さんで

 待ち合わせの時間に余裕があるとき、頭の中が混乱しているとき、自己嫌悪に苛まれるようなとき、そんなときはいつも本屋さんへ行く。ズラッと並んだ背表紙を見ているうちに気持ちが落ち着いてくるから不思議だ。それに本屋さんのあの匂いがいい。飲食店でも衣料品店でもない本屋さんだけの匂い。

 主人と外食した後はふたり揃って必ず本屋さんへ行く。ご馳走のシメみたいなものになっている。その本屋さんの片隅に自分の本が置かれていたら、これはもう私にとっては世界遺産級の存在になる。

出版の応援団ふたり

 出版のもうひとつの理由に「作品をひとり歩きさせる」というのがある。実は1冊目の『食卓天気予報』を出版したのはこの理由からである。私が物書きとしての師匠と仰ぐ故松本幸夫先生に粗原稿を読んでいただき、思いがけず絶賛されたため、自分の中でいつまでも弄くりまわしていて先に進めなくなったからだ。

 ちなみに松本幸夫先生は私が暮らす埼玉県熊谷市の元教師で、教育者・物書きとして多くの市民に慕われた。教職を辞されてからはご自宅に『つばき文庫』を開設され、地域の子供たちの集う場として提供したり、或いはさまざまな分野で活躍する方々を集めて勉強会を開いたりと新しいことに常にチャレンジされていた。

 以前から交流のあった先生に思わぬご好評をいただいたことが却って足踏みする結果となったことが不甲斐なかった。そこで出版を決意。先生にご相談したところ、本作りに当たっての心構えをご伝授いただいたが、それはまさに作品のひとり歩きであった。

 突き放してひとり歩きさせることは、ちょうど「親離れ子離れ」のようで、勇気もいるが一段ステップアップできる。

 このときに朱鳥社と出会ったのだが、大手の出版社を回ったあとに訪ね、コンパクトな編集室に何故かホッとしたことを覚えている。故内田前社長の元気の良い関西弁に捲し立てられ、帰り路にはもう朱鳥社で出版しようと決めていた。

 オシャベリな私がほとんど話もできなかったので、再度朱鳥社を訪れたときにリベンジを試みたが、結果はやはり内田社長の勝ち。彼の元気ぶりは「細くても元気なグリーンアスパラガスのような人」というイメージで、彼を「パラさん」と呼んだのがつい昨日のことのようである。

 松本先生と内田社長、私の本作りはこのふたりの存在が無かったらあり得なかったかもしれない。四苦八苦、迷走困窮の末にやっと出版に至った今回の短編集を、一番読んで欲しかったふたりである。

スナップ

我が家の愛犬2匹とともに(公平に扱わないと世論というか犬論がうるさいので)。

本人についてはあからさまに顔が見えない分、ミステリアスで想像の余地がありますでしょう?

スナップ